実践型インターンシップから科学技術の社会実装を考える
科学技術の社会実装では、専門家が設計し、若者や住民は説明を受ける側に置かれがちである。しかし、新しい技術が本当に社会へ根づくには、将来の利用者や担い手が、検証と改善の段階から参加する必要がある。私が大阪府立青少年会館、ソーシャルビジネス支援、大学教育、地域企業の経営革新で継続して扱ってきた実践型インターンシップは、そのための有力な方法である。
と言いながら、私自身も当初はその価値を十分に理解しておらず、当時のインターンシッププロジェクトのコーディネートも、穴を掘って入りたいほど恥ずかしい代物であった。その反省も踏まえて、2010年には内閣府の地域社会雇用創造事業の一環で、全国のソーシャルビジネス・インターンシップのモデルカリキュラム開発と運営支援に携わった。その後も大学や地域を対象に、インターンシップの専門人材育成やカリキュラム設計を担うようになった。
見学ではなく、成果に責任を持つプロジェクトにする
実践型インターンシップは、NPO法人ETIC.(https://etic.or.jp)がコンテンツを整備し、マネジメント品質を定義し、コーディネーター人材の育成も担ってきたプログラムである。
職場を見学し、指示された作業を体験するだけの就業体験とは異なり、企業や地域が実際に抱える課題を切り出し、一定期間、学生や若手が調査、提案、試行、検証までを担う。受入先は教育のための架空課題ではなく、顧客開拓、商品開発、情報発信、業務改善など、経営や地域活動に意味のあるテーマを提示するという、まさに実践を伴うタイプのインターンシップである。
このプログラムでは二つの成果を同時に設計しなければならない。一つは受入組織にとっての事業成果、もう一つは参加者の学習成果である。事業成果だけを追えば、若者は安価な労働力になる。学習成果だけを追えば、受入組織に負担だけが残り、継続しない。社会実装の文脈に転用すれば、社会実装と人材育成を別々の事業にせず、一つのプロジェクトの中で両立させることが要点になる。
若者は「未知の利用者」を代表できる
新技術の開発者や導入担当者は、製品や制度を知り過ぎている。操作の前提、専門用語、既存の業務慣行を当然と考え、初めて使う人がどこで迷うかを見落としやすい。若者や学生が実装プロジェクトへ入る価値は、経験不足を補助することだけではない。既存組織の常識から距離を取り、利用者の素朴な疑問を表面化できる点にある。
例えば、地域交通アプリの実装なら、機能テストだけでなく、高齢者への説明、紙の時刻表との併用、窓口職員の問い合わせ対応、使わない人への代替手段まで観察できる。農業技術なら、性能だけでなく、繁忙期に入力作業を続けられるか、故障時に誰が復旧するか、データを誰が所有するかを問い直せる。参加者を単なるモニターではなく、調査と設計の主体にすることで、実装上の盲点が早く見つかる。
成否を分けるのは、コーディネートの設計である
学生と企業を紹介すれば、自動的に良い協働が生まれるわけではない。受入先の課題が広過ぎる、担当者に意思決定権がない、学生の能力と任務が合わない、学期と事業の時間軸がずれるといった問題が起こる。そこで必要になるのが、双方の目的を翻訳し、プロジェクトを設計し伴走するコーディネーターである。
開始前には、達成したい変化、検証する仮説、参加者が扱える範囲、必要な権限、相談経路を明確にする。実施中は、作業量ではなく仮説と観測結果を確認し、課題の難度や支援方法を調整する。終了時には、成果物を納品して終えるのではなく、何が分かり、受入組織の次の意思決定がどう変わるかを記録する。
私ががインターンシップ専門人材の養成を重視してきた背景には、こうした媒介機能なしに制度だけを広げても、体験の質が担保できないという認識がある。そして、科学技術の社会実装においても同様の問題意識がある。
参加型実装を「無料のアイデア募集」にしない
若者(に限らず地域の人たち)の参加を掲げながら、実際には意見を聞くだけで採否の基準も示さない事業は多い。参加者の提案が意思決定へどう接続したかが見えなければ、共創は単なる儀礼になる。また、大学と地域の協働の際に地域課題を学習材料として消費し、現場へ結果を返さない、などということも避けなければならない。
参加型の実装には、扱える情報、決められる範囲、成果の権利、個人情報、報酬や単位、失敗時の責任を事前に定める必要がある。提案を採用しない場合も理由を返す。参加者の成長だけでなく、現場に知識と成果物が残るようにする。これは学生を送り込む大学の立場で言えば教育上の配慮であると同時に、科学技術の社会実装の観点では研究倫理と実装ガバナンスの問題である。
科学技術の社会実装に必要なのは、完成した技術を若者や地域の人に理解させることではない。若者や地域の人たちが現場の課題を解釈し、仮説を試し、技術と運用をつくり直す機会を制度化することである。対象が若者に限るものの、実践型インターンシップは、人材育成プログラムであると同時に、社会が新しい技術を学習するための小さな研究開発システムであると意味づけることができる。
プロジェクトの質をそろえる
ここからは、少し妄想めいた話。
実践型インターンシップを科学技術プロジェクトへ応用する際は、開始前に一枚のブリーフを共同作成するとよい。そこには、受入組織が変えたい事業状態、現在の原因仮説、参加者が検証する問い、最終成果物、利用できるデータと予算、決められる範囲、社内担当者、週次レビュー、学習目標を記す。「市場調査をする」ではなく、「想定顧客十者への観察と試用を通じ、導入を妨げる上位三条件を特定する」といった形にする。
参加者の参画レベルも段階化する。最初は観察と小さな分析から始め、理解と信頼が進めば顧客接触、試作、提案、限定的な意思決定へ権限を広げる。権限拡大の条件を明示すれば、放置と過剰管理の両方を避けられる。受入担当者には、答えを教えるのではなく、判断の背景を共有し、仮説へ問いを返すメンタリングが求められる。
終了時には、成果物、検証できた仮説、未解決事項、次の90日間の行動を、参加者と受入先が共同で引き継ぐ。学習成果も自己評価だけにせず、根拠となる行動や成果物で確認する。こうした型があれば、若者参加は広報的な体験から、技術と組織を同時に前進させる実装プロジェクトへ変わる。
実践型インターンシップの仕組みは、うまく使うと科学技術の社会実装を促進するツールとしても活用できると、期待するところだ。