指定管理者制度から考える、行政における社会実装

新技術を行政サービスへ導入するとき、費用削減や処理時間短縮は説明しやすい。窓口の自動化、センサーによる保守、AIによる文書作成など、効率化は予算要求の強い根拠になる。しかし公共部門の社会実装は、安く速くするだけでは成功しない。サービスの目的、公平性、説明責任、長期的な地域価値を同時に扱う必要がある。

2006年に私が大阪府立青少年会館の指定管理者として運営に携わった際に、指定管理の使命を「施設の効用の最大化」と捉え、効率性と効果性を同時に追求することと定義した。当時庫のような姿勢で施設を管理運営していた他の指定管理者を私自身は寡聞にして知らない(もちろん、どこかにあった可能性は否定できない)。この考え方は、自治体のDXや公共技術の導入にもそのまま応用できる。

権限移譲は、責任移譲でもある

指定管理者制度では、単なる業務委託と異なり、条例の範囲で施設の利用許可などの権限を担う。これは一定の公権力を自治体に代わって行使する仕組みであり、指定管理者のガバナンスに大きな責任が伴う。

技術導入も同様である。AIが申請の優先順位を提示する、アルゴリズムが支援対象を抽出する、民間プラットフォームが住民データを扱う。こうした仕組みでは、作業を外部化しても行政責任は消えない。判断基準は説明できるか、異議申立ての経路はあるか、誤判定の不利益を誰が回復するかを設計しなければならない。

「ベンダーの仕様だから」「AIの判断だから」は公共部門では通用しない。権限を支えるルール、監督、記録、救済を実装対象に含める必要がある。

五年の契約と二十年のビジョンを両立する

指定管理の期間は一般に数年である。しかし、施設運営には少なくとも二十年程度先のビジョンが必要である。短い契約期間だけを見れば、設備投資や人材育成は回収しにくく、引き継いだ業務を無難にこなす方が合理的になる。しかしそれでは、指定管理者は安価な下請けにとどまり、施設の効用は高まらない。

公共技術にも同じ時間軸のずれがある。単年度予算、三年の実証、任期付き担当者、数年で更新されるシステム。その一方で、住民の信頼、人材の能力、データ基盤、地域の行動変容は十年単位で形成される。短期事業の出口を「実証終了」とせず、長期ビジョンのどの段階を検証するのかを明示することが重要である。

実装ロードマップには、技術の更新だけでなく、運営主体の継承、職員の育成、財源、データ移行、制度改正の見通しを含めなければならない。

効率性は、サービスを削ることではない

青少年会館では、館長や副館長を含むスタッフが基本的な受付業務を担えるようにした。この変更は、人員配置の無駄と利用者の待ち時間を減らすだけでなく、管理職が利用者の声に直接触れる機会を増やした。効率化と学習を同時に実現する設計であった(私が館長だと気づかず、年長の副館長のことを館長だと思い込んでいる利用者さんがけっこういたというのは今ではよい思い出だ)。

重要なのは、コスト削減を「仕事を減らすこと」と同一視しない点だ。公共施設は、不採算だからといって必要な機能を簡単に捨てられない。既存サービスを維持しながら、業務の分担、契約、手順を見直し、浮いた資源(当時、大阪府の管理から民間事業者の管理に移ったという理由で電気料金が上がったことには釈然としないものがあったが、遠い過去の話)を新しい公共価値へ振り向ける必要がある。

行政DXでも、処理時間を削減した結果、対面支援が必要な人に職員が時間を使えるなら価値が生まれる。単に職員数を減らし、相談の入口を狭めるだけなら、効率性の数字は改善しても公共価値は低下する。

条例の文言ではなく、設置目的に立ち返る

青少年会館の館長職に就く際に、最初にやったことは、青少年会館のホールや会議室を文化施設としてだけ見るのではなく、条例の第一条に示されていた、「青少年活動の促進と健全育成」という設置目的から運営を考ることだった。キャリア教育、インターンシップ、若手芸術家の支援などは、施設の形態ではなく目的から導かれた用途である。

技術選定でも、既存業務のデジタル置換を目的にしてはいけない。「この行政サービスは、住民のどの権利や生活を支えるために存在するのか」へ戻る必要がある。目的が明確なら、対面を残すべき場所、データを共有すべき範囲、自動化してよい判断と人が担う判断を整理できる。

公共部門における社会実装は、効率性、効果性、正当性を同時に成立させる仕事である。指定管理者としての私の実践は、技術導入の評価を「いくら削減したか」から「社会的投資のリターンをどれだけ高めたか」へ広げる試みであった。

公共価値のスコアカードをつくる

行政技術を評価する際は、財務指標の横に公共価値の指標を置く必要がある。少なくとも、アクセス、公平性、サービス品質、利用者の尊厳、説明可能性、組織の回復力という六つを確認したい。オンライン化で平均処理時間が短くなっても、障害者、高齢者、日本語を母語としない人の利用率が下がれば、アクセスと公平性は悪化している。AIで判断が速くなっても、異議申立ての方法が不明なら正当性は弱い。

指標は平均値だけでなく分布を見ることも重要だ。誰の待ち時間が減り、誰の負担が増えたか。便益を得る部署と、追加作業を負う現場が別なら、その移転を可視化する。費用もシステム契約額だけでなく、教育、データ整備、監督、事故対応、更新・撤去まで含む総保有コストで比較する。

スコアカードは採点表ではなく、価値の衝突を議論する道具である。すべてを最大化できない場合、どの権利や最低条件は譲れず、どの指標は試行を通じて改善するかを決める。指定管理の経験から得られる教訓は、民間手法を公共へ持ち込むこと自体ではない。効率化によって生まれた余力を、届きにくい人への支援、現場学習、将来のサービス能力へ再投資して初めて、行政の社会実装は公共価値を増やすということである。

この評価は、たとえばDX担当だけに任せず、財政、現場、福祉、法務、利用者代表が同じ指標を見る形にする。公共価値は一部署の成果ではなく、行政組織と地域全体に分散するため、評価と予算配分も部門横断で行わなければならない。

畢竟、社会実装のカウンターパートナーは、自治体の一部門ではなく、首長か、最低限でも部門横断で思考・活動ができる戦略部門であることが望まれる。