ソーシャルビジネス支援から学ぶ社会実装の基盤設計
優れた社会起業家や革新的な技術プロジェクトを一件生み出しても、その地域の課題解決能力が高まるとは限らない。事業が特定の個人、補助金、外部専門家に依存していれば、支援の終了とともに活動も止まる。科学技術の社会実装を持続させるには、個別案件の成功だけでなく、次の挑戦が生まれ、必要な人材・資金・知識へ接続できる「生態系」を設計する必要がある。
2010年〜2011年、内閣府の地域社会雇用創造事業としてNPO法人ETIC.が受託したソーシャルビジネス・エコシステム創出事業で、カリキュラム開発委員を務める機会を得た。この時、全国20カ所で展開されたインターンシップ事業のモデルカリキュラム開発と、現場運営のハンズオン支援を担った。自分自身が、社会変革に向けたシーズの実装プロセスに、それを意識して取り組んだ最初の挑戦だった。
ここで言うエコシステムは、生態学の用語を転用して使っているわけだが、表面的にマネをして使っているわけではないし、行政、大学、金融機関、企業、NPO、住民が参加する協議会のようなものを言い換えたものでもない。
協議会のようなものをつくれば、エコシステムが完成するわけではない。重要なのは、主体間に一定の相互作用があり、その中でで資源が循環することだ。地域課題が事業テーマとして言語化され、挑戦者が見つかり、資金と人材が集まり、小さな実験が行われ、成果と失敗が共有され、次の案件に知識が再利用される。この循環がなければ、組織の数が多くても生態系は動かない。
科学技術の場合、大学に研究シーズがあり、自治体に課題があり、企業に事業化能力があっても、互いの探索コストが高ければ接続しない。課題側は技術の成熟度を判断できず、研究者は現場の調達や規制を知らず、企業は実証後の需要を読めない。情報の非対称性と信頼不足を下げる媒介機能を持つ中間支援組織が必要になる。
中間支援組織が担う五つの機能
社会実装の生態系における中間支援は、単なる紹介業ではない。少なくとも以下のような機能を果たすことが求められる。
- 第一に、現場の困りごとを、検証可能な課題へ翻訳する。
- 第二に、研究者、企業、利用者など適切な主体を組み合わせる。
- 第三に、期間、権限、成果指標、知的財産を含むプロジェクトを設計する。
- 第四に、実施中の対立や停滞を調整し、学習を促す。
- 第五に、案件から得た知識を共有可能な形へ整理し、次の実装へつなぐ。
モデルカリキュラムと運営支援の双方に関わったことは、この五つを標準化しつつ現場へ適応させる仕事だったと言える。標準がなければ品質は担当者次第になる。しかし標準を厳密に当てはめれば、地域固有の関係や課題を損なう。共通の設計原則と、地域ごとの裁量を組み合わせることが要る。
社会が継続的に技術を選び、試し、育てる能力をつくる
ソーシャルビジネス・インターンシップの特徴は、事業支援と人材育成を同じ場で行う点にある。若者は現場の課題解決へ参加し、事業者は新しい視点と実行力を得る。地域のコーディネーターは、案件設計と伴走を通じて経験を蓄積する。一つのプロジェクトが、複数の主体の能力形成を同時に進める。
これは、実は共創の中核機能でもある。共創は多様な主体が一緒に何かをするというだけのことではない。その活動を通じて参画するステークホルダーが学び成長することが求められる。
科学技術の実証でも、外部の研究チームがデータを取得して去るだけでは、地域に次の実装能力が残らない。現場職員が評価方法を学び、地域企業が保守や運用を担い、住民がルールづくりへ参加できるようにする必要がある。事業費の一部を研修へ使うという意味ではない。実証そのものを、関係者が能力を獲得する設計に変えるのである。
エコシステムでは、すべての案件を成功させることはできない。むしろ、実現性の低い仮説を小さな段階で見極め、資源を次へ移せることが健全さを決める。補助金や面子のために継続すると、失敗の情報が隠され、同じ誤りが繰り返される。
採択時から継続・修正・中止の基準を置き、終了案件の学びを公開し、参加者を次の挑戦へ接続する。プロジェクトの失敗と、挑戦者の失敗を同一視しない。こうした退出の設計があれば、探索の量を増やせる。
社会実装の成果を、上市件数や採択件数だけで測るべきではない。課題が発見されてから実験が始まるまでの時間、地域内で再利用された知識、次の案件を自力で設計できる人材、支援終了後も続く協働関係を測る必要がある。ソーシャルビジネスのエコシステム形成は、技術を「届ける」政策から、社会が継続的に技術を選び、試し、育てる能力をつくる政策への転換の象徴と言えるのではないかと、今になって思う。
エコシステムの健康状態を測る七つの問い
社会実装エコシステムは、採択件数や事業化件数だけでなく流れで診断できる。
- 第一に、課題候補が継続的に発見されているか。
- 第二に、課題が実験可能な形へ変わるまでの時間は短くなっているか。
- 第三に、同じ組織や属性だけでなく、多様な挑戦者が入口へ来ているか。
- 第四に、必要な研究者、企業、金融、行政へ接続できるか。
- 第五に、途中で止めた案件の知識が共有されているか。
- 第六に、支援を受けた人が次の挑戦者を支えているか。
- 第七に、外部資金がなくても残る機能は何か。
この問いを繰り返し投げかけると、プロジェクトの「詰まり」が見える。アイデアは多いが実験へ進まないなら、課題設計や少額資金が不足しているのだし、実証は多いが定着しないなら、事業化・制度化を担う主体が遅れて参加している。特定コーディネーターに紹介が集中するなら、知識と関係をチームへ移す必要がある。
エコシステムの役割は、すべての主体を一つの組織へ統合することではない。異なる主体が自律性を保ちながら、必要な時に低い取引コストで協働できる状態をつくることだ。支援者がいなくなっても課題発見、実験、学習、再挑戦の循環が動くなら、個別事業を越えた社会実装基盤が形成されたと言える。
中間支援そのものの持続性も設計対象である。成功報酬だけでは初期探索や失敗共有に資金が回らず、行政委託だけでは年度ごとの仕様に縛られる。会費、事業収入、公共財としての基盤支援を組み合わせ、誰にも属さない媒介機能を地域で支える必要がある。