現代は先行きの読めない複雑な時代です。技術革新や市場トレンドが激変し、新型コロナ禍のような予測不能な危機も起こる中で、企業は常に変化への適応を迫られています。こうした環境下、「強くてよい会社」を目指す経営手法として注目されているのがB/S経営です。これは、バブル崩壊で約230億円もの負債を抱えながらも事業再生に成功した、故木村勝男氏が生み出した経営術で、激しい変化の時代に企業を生き残らせる知恵として提唱されました 。

「強くてよい会社」とは何でしょうか。【強い会社】とは、環境の激変にも倒れない企業を指します。逆風に耐えられる十分な財務体力を持ち、逆境をチャンスに変える事業創造力を備えていることが条件です。一方で【よい会社】とは、社員が仕事を楽しみ成長できる企業です。社員一人ひとりが意欲と創造性を発揮できる職場は全社の活力となり、持続的成長のエンジンにもなります。強さ(経営の安定と変化対応力)と良さ(働く人々の幸福と挑戦意欲)の両立こそが、変化に適応し続ける「強くてよい会社」の姿と言えるでしょう。

では、どうすればそのような会社を実現できるのでしょうか。B/S経営のエッセンスは、企業そのものを一つの「商品」として捉えるユニークな視点にあります。通常、経営者は自社の商品やサービスを通じて顧客のニーズを満たすことに注力します。しかし発想を転換し、経営者自身にとっての顧客――「会社を買ってくれる人」に目を向けてみます。実際に会社を売る必要はありませんが、もし自社を買いたい人がいるとしたらどう評価するか…と想像してみるのです。企業を一つの「商品」と見立て、その魅力を高めるには何が必要かを問うアプローチと言えます。

第三の顧客である買い手の視点に立てば、まず問われるのは「どれだけ儲かる会社か」という点でしょう。投下した資金に対しどの程度のリターンが得られるか――企業価値を測るこの尺度がROA(総資産利益率)です 。ROAとは、会社が保有する総資産を使ってどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す財務指標であり、数値が高いほど効率よく利益を上げていることを意味します 。ROAの高い会社ほど資産活用の効率が良く経営力が高い会社とみなされます。B/S経営では、経営者は常に自社のROAを意識し、これを高めることを重要目標に置きます。

ではROAを高めるにはどうすればよいでしょうか。ROAは簡単な式で表されます:ROA=利益 ÷ 総資産です。したがって分子である利益を増やすか、分母である総資産を減らすかの二つしか方法はありません。もちろん、利益追求と資産削減のバランスには注意が必要です。短期利益を優先して資産を減らしすぎれば将来の稼ぐ力を損ないかねませんし、逆に将来に備えるあまり目先の利益を出せなければ成長の原資を欠いてしまいます。経営者は常にこのバランスを見極め、状況に応じて舵取りをする必要があります


P/Lは企業の「動」:日々の価値創出を読む

企業の損益計算書(P/L)は、会社の「動き」——すなわち日々のビジネスの積み重ねを数字で表したものです。一定期間の収益(入ってくるお金)から費用(出ていくお金)を差し引いて最終的な利益が算出されます。P/Lを通じて、経営者は自社の営みがどれだけの価値(利益)を生み出したかを客観的に把握できます。そしてここで重要なのは、収益と費用それぞれについて現場と経営者の明確な役割分担がある点です。

収益(入るお金)には主に3つの種類があります:

  1. 売上高 : 顧客への商品・サービス提供によって得られる本業の売上です。これは現場の社員たちの努力(営業活動や顧客対応など)によって日々積み上げられる収益であり、現場の自主的な創意工夫が売上を伸ばし会社全体の価値創出を底上げします。
  2. 営業外収益 :本業以外で継続的に得られる収入です。例えば遊休資産を駐車場として活用して得る賃料収入や、保有株式の配当・預金利息などが該当します 。これらは主に経営者の投資判断による収益であり、現場というより経営陣の意思決定によって生み出されます。
  3. 特別利益 : 資産の売却などにより得られる一時的な収入です。土地や有価証券の売却益などが代表例で、これも経営者の裁量による収益と言えます。適切なタイミングで不要資産を手放す判断力が問われる収入です。

次に費用(出るお金)は、4つのカテゴリーに分かれます:

  1. 売上原価 : 販売した商品やサービスの仕入れ・製造に直接かかったコストです。各商品の原価を下げる努力は現場のミッションですが、どの商品・サービスにどれだけのリソースを割くかといったビジネスモデル上の決定は経営側の責任となります。
  2. 販売費および一般管理費(販管費) : 人件費、地代家賃、広告宣伝費など事業運営に必要な諸コストです。むやみに削減すれば良いわけではなく、費用がどれだけ売上拡大や顧客価値向上に貢献しているかを見極める視点が重要です。どこにどれだけ費用をかけるかは経営者の戦略判断であり、その予算を最大限に活かす運用は管理職の腕に委ねられます。
  3. 営業外費用 :借入金利など本業以外で発生する費用です。支払利息額などは会社の信用力、平たく言えば財務の健全性によって増減します。健全な財務体質であれば借入コストを低く抑えることができるため、日頃から強固な貸借対照表を維持することが重要です。
  4. 特別損失 : 災害による損害や資産売却損など一時的な損失です。発生タイミングをある程度コントロールできるケースもあり、計画的に計上して業績を調整するような戦略的な費用として利用されることもあります。

要するに、P/Lは企業という組織体の「やっていること(Doing)」を映し出す鏡だと言えます。経営者にとってP/Lを読み解くことは、「自社は今何を行っているのか」「どこに強みと課題があるのか」を俯瞰し、次の一手を考えるための作業にほかなりません。言い換えれば、P/Lは経営改善のための強力なフィードバックループでもあります。現場の試行錯誤や改善活動の成果が売上や利益となって表れ、それをもとに経営側が戦略を修正・実行する——このサイクルを絶えず回し続けることで、企業は環境変化に適応しながら成長していくのです。

しかし、激しい競争環境で長期に勝ち残るには、目先の利益追求だけでは不十分です。短期的に稼ぐ力だけでなく、将来の変化に備える構造的な強さを備えなければなりません。それは貸借対照表(B/S)に表れる会社の「あり方(Being)」であり、経営者はここに長期ビジョンを描く必要があります。次の後編では、B/Sに着目した経営視点と前編で述べたP/L重視のアプローチを統合し、企業が継続的に自己進化していくための長期ゴール(B/Sビジョン)の描き方を考察します。