多くの市場では、商品やサービスの価格や品質にある程度の相場が存在します。
相場とは、市場参加者の暗黙の了解で決まる均衡点です。
しかし、そこに甘んじていては抜きん出ることができません。
本稿では、複雑系の視点で差別化戦略を捉え、競争市場の均衡(相場)を崩して利益を生み出すポイントを探ります。

最初に認識すべきは、完全競争状態に近い市場では企業の収益機会が限られるということです。
経済学でいう完全競争市場では、商品は均質で価格は市場で一本化され、個々の企業が価格決定力を持ちません。
つまり「どんなに頑張っても儲からない市場」が生まれます。
この状況から抜け出すには、相場価格に埋もれない独自性を打ち出す必要があります。
複雑適応系の視点では、多様な企業がしのぎを削る市場の中で新しい秩序を創造する行為とも言えます。
差別化戦略には様々な切り口がありますが、大きくは「どの価値軸で突出するか」を定めることです。
例えば「価格(コスト)」「品質(性能)」「サービス(スピードやカスタマイズ)」などの軸があります。
ある軸で圧倒的になると、競合との比較基準をその軸に引き寄せ、市場のルール自体を変えてしまうことができます。
マイケル・ポーターの基本戦略になぞらえれば、「コストリーダーシップ」「差別化」「集中」の組み合わせが考えられますが、複雑系の視点ではさらに柔軟な発想が重要です。
つまり、固定的な戦略ではなく、市場の反応を見ながら逐次自社の強みを進化させていくアプローチです。
少し流れを考えてみましょう。
既存の相場価格が存在する中で、ある企業が画期的なコスト構造を実現し、大幅な低価格を実現したとします。
最初は消費者に歓迎され、市場シェアを伸ばせるでしょう。
しかし競合も黙っていません。
いずれ類似のコスト削減策を導入し価格を追随してくる可能性があります。
ここで重要なのが継続的なイノベーションと適応です。
低価格戦略だけでなく、顧客体験やブランドなど他の軸でも差別化を図り、追随を許さないようにする。
こうすることで、競合との軍拡競争ではなく、自社独自の市場ポジションを確立できます。
これは、生態系で一種の生物がニッチを見つけ進化する姿にも似ています。
他者と異なる資源の取り方(市場の攻略法)を見つけることで、生存と繁栄の機会を広げるわけです。
差別化戦略を成功させるには、自社の内部資源も鑑みて適応可能な領域を選ぶ必要があります。
複雑系では「適応度地形(フィットネスランドスケープ)」という考え方がありますが、市場の様々な価値軸を地形に見立てたとき、自社が高い峰(高い利益)を達成できるポイントを探索するイメージです。
一度高い峰に登っても、環境(競合や顧客嗜好)が変わればその峰の高さも変わります。
そこで、常に次の峰を探し登り続けることが連続的競争優位のためには不可欠です。
具体的には、市場の変化兆候(価格競争の激化や顧客ニーズの変化)を捉えたら戦略を微調整し、新たな強みを作り出すことです。
例えば、新興技術を取り入れて付加価値を高めたり、異業種と組んでサービスを拡張するなどもその一つでしょう。
要するに、複雑な市場で相場を崩すには「戦略的な創発」が鍵となります。
トップダウンで計画した戦略に加え、現場からのアイデアや顧客からのインスピレーションを取り入れながら、独自のポジションを築き、それを守るだけでなく常に刷新していく。
この動的なプロセスこそが、連続的競争優位を実現する差別化戦略のポイントなのです。