地方創生や地域活性化に取り組む自治体にとって、地域社会に持続的な変化を起こすには新たな視点が求められています。その鍵の一つが「複雑適応系」の視点です。複雑適応系とは、周囲との相互作用を通じて自らの行動ルールを変化させられる要素(エージェント)が多数存在し、それらの相互作用によって全体の振る舞いが決まるシステムのことです 。人間社会や地域コミュニティはまさに複雑適応系と捉えられ、そこでは個々の住民や職員といったエージェントの学習・適応によって地域全体の姿が刻々と変わっていきます。自治体が地域を「複雑適応系」として支援するということは、計画通りにコントロールするのではなく、自己組織化や創発といった自律的な変化を引き出すことに他なりません。
複雑適応系の視点で捉える地域変革
複雑適応系の視点に立つと、組織や地域への介入方法も従来型とは異なるものになります。複雑適応系では多様な要素の相互作用から予測困難な変化が生まれるため、むしろ変化を促す環境づくりが重要です。具体的には、専門家の間で次のような三つの介入アプローチが指摘されています :
• 情報やエネルギーの注入 – 新たな知識や視点を組織に吹き込み、メンバーの考え方や判断基準をアップデートすること 。固定観念を揺さぶることで変化への起点を作ります。
• 新しいエージェントの投入 – 外部の人材を受け入れて人と人の関係性にゆらぎ(変化)を与えること 。組織内に他所から人が入ると、人々のつながり方が否応なく変わり、新しいネットワークと刺激が生まれます(例えば国の「地域おこし協力隊」の受け入れなど )。
• 相互作用パターンの調整 – 組織内の様々な取組の中から「何に力を入れ、何に力を入れないか」という選択と集中の基準を定めること 。有望な芽を選択的に伸ばし、そうでないものへのリソース投入を抑えることで、組織全体の進む方向性を創り出します(後述する「シンボルプロジェクト」の設定がこの一例です )。
以上のようなアプローチによって外部から強制的に変革を押し付けるのではなく、組織や地域社会の内側から新たな変化が湧き起こる状況を整えていくのが、複雑適応系的な地域支援の基本スタンスとなります。ポイントは、「変化を起こす素材(多様なアイデア)」と「変化を促す揺らぎ(刺激)」を十分に用意し、あとは現場の自発的な試行錯誤に委ねることです。こうした視点を持つことで、地域は線形的な計画には収まりきらない創造的な進化を遂げやすくなります。
