経営環境が目まぐるしく変化する現代では、一度築いた優位性に安住していては生き残れません。
連続的競争優位とは、常に変化に適応し続けて競争力を維持・強化することです。
これは現在のように企業を取り巻く技術や市場、ネットワークが複雑に絡み合い、予測困難な状況でも、しなやかに対応していく力といえます。

特に、新型コロナ禍や急速なデジタル化により、「持続的競争優位(長期間変わらない優位性)」の前提が崩れた今、競争優位も静的なものから動的なものへと変わりました。
まず、複雑適応系の視点から現代の市場を捉えてみましょう。
市場は多数の企業・消費者が相互作用する非線形なシステムです。
一企業の戦略が競合他社や消費者行動に影響を与え、その反応がまた自社に跳ね返ってくる、といった循環が生まれます。
こうした複雑なネットワークでは、小さな変化が大きな結果を生むこともあり、未来を完全に予測することは困難です。
それゆえ、経営者には変化を前提とした適応力が求められるのです。
「これまで10年有効だった成功パターンが、次の数年でも通用するとは限らない」という感覚を常に持ち、環境の変化を敏感に察知して組織を変えていく姿勢が重要になります。
では、連続的競争優位を築くために何から始めるべきでしょうか。
ポイントは二つあります。
第一に、「変化対応力」を組織の中核的な強みにすることです。
これは単に柔軟な発想を持つだけでなく、社内の仕組みとして変化に備えることを意味します。
例えば、市場や技術トレンドをモニタリングし、小さな兆しにも迅速に動ける体制を作ることです。
また社員一人ひとりが改善提案できる文化など、自己組織化的な動きを促す環境を整えるのも有効です。
第二に、変化によって既存の強みが陳腐化するリスクを減らすことです。
具体的には、特定の商品やビジネスモデルに固執せず、新たな価値創出に投資し続けることが挙げられます。
多角化やイノベーションへの投資は、一見遠回りに見えて、環境変化に対するレジリエンス(回復力)を高めてくれます。
複雑適応系の理論では、システムが長期に安定しすぎるとやがて大きな崩壊を迎えることが知られています。
企業経営も同様に、適度な変化を取り入れ絶えず進化することで、大きな破綻を防ぎます。
連続的競争優位の経営学は「変化を前提に進化し続ける企業」を目指す学問とも言えるでしょう。
以降の連載では、このテーマを具体的な経営理論のエッセンスとともに、複雑系科学の視点からひも解いていきます。